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現地の活動で、立ちはだかるものとは?            ―水野達男氏インタビュー②―

前回に引き続き、Malaria No More Japan専務理事の水野達男さんへのインタビュー・レポート。

今回のテーマは「支援の障壁」、中でも「BHC:Behavior Change Communication」という言葉について詳しくうかがってきました。

Malaria No More Japan今年4月から「ZEROマラリア2030キャンペーン」を開始し、日本から世界へ、「マラリアのない世界」を目指す取り組みをさらに進めている。

3.支援活動の意味を現地の人は分かっているのか

私たちが大学で学習する中で、貧困地域の人々は、マラリアの危険性や、予防の必然性に関する認知度が低いと習ったことがあります。また、蚊帳ひとつとっても、多くの補助金を出したとしても、有償であれば、(それがどんなに少額であったとしても、)人々は「入手しない」という意思決定を下してしまう、ということも学びました。

Q.マラリア撲滅のための啓蒙活動や教育の場はないのですか?

私たちが大学で学習する中で、貧困地域の人々は、マラリアの危険性や、予防の必然性に関する認知度が低いと習ったことがあります。また、蚊帳ひとつとっても、多くの補助金を出したとしても、有償であれば、(それがどんなに少額であったとしても、)人々は「入手しない」という意思決定を下してしまう、ということも学びました。

Q.では、学校で、マラリアに関する教育を行っても、学校に来る児童が少ないから、なかなか知識が広がらないということですか?

いや、そもそも学校では積極的に保健教育やマラリアについて教えませんよ。優先的に教えるのは、言語、歴史、そして足し算引き算掛け算ですね。

この機会に、ぜひ皆さんに覚えてほしい言葉があります。「BHC:Behavior Change Communication」、つまり、「生活習慣を変えるための情報伝達」という言葉です。これは結構みなさんが想像するよりも難しいんですよ。そもそも、現地の人々は、マラリア原虫を蚊が媒介するということすら、まず知らない。

―ええええ!?!?!?!?

マラリアという言葉は知っていますし、蚊帳が有効だということも最近知るようになってきました。

Q.じゃぁ、昔の蚊帳と殺虫剤付きの今の蚊帳の違いも知らないということですよね?

そうそう。知らない。そういうことも全部教えなければいけません。マラリアが重要な課題だと、私たちが思っていても、彼らには他にもっと重要なことがあるからね。人々の生活態度を変えるのはとても難しくて、変えさせるだけの何か(彼らにとっての明確な利益:Benefit)がなくちゃいけないんです。昔からの習わしを変えるためには、やはり啓蒙だけではなくそれを変えるだけの価値を感じさせる何らかの大きな利益がなければいけません。

僕がひとつ面白いな、と思ったのが、現地人は、ほぼ一人一台携帯電話を持つようになったこと。なぜかというと、彼らがおしゃべりだから(笑)。ほかにも、食べ物や、遊び、男性ならお酒、女性なら化粧品やカツラが結構売れていたりします。蚊帳を使う習慣がない人たちに、蚊帳を使ってもらうには、彼らが本当に蚊帳の効果を信じて、本当に欲して状態がいない限りありえないということです。どうやって彼らの生活習慣、行為・行動を変えるかということは、何をするにしてもとても大切なんです。

<写真>子供が見ても分かるようにパッケージのデザインも工夫している。昔は普通の蚊帳を、半年ごとに殺虫剤で浸して使っていた。現在のものはネットにもともと殺虫剤が含まれている。およそ5年間使うことができる。

4.男尊女卑がもたらすもの

Q.マラリアに感染して何人もの死者が出ていたとしても、マラリアは直近の課題にならないのですか?

何人かはマラリアで死ぬものだと思っていて、社会全体では、マラリアで生き残った者だけが生きていけばいいと思っているのです。けれども、母親はそうとは思っていなくて、自分の子供が亡くなってしまうことがとても悲しいと感じます。かといって、夫に蚊帳が欲しいと言ってたとしても、夫は「何を言っている、自分たちの世代は蚊帳が無くて当たりまえだった」などと一蹴されてしまう。

Q.男尊女卑ということですか?

いろいろな場面で、男尊女卑の存在が背景にある気がします。私は蚊帳を配るときに袋を破って配ったことがありますが、なぜそんなことをしたのかというと、袋を破っておかないと、彼らは転売してしまうんです。新品だと。「俺も子供の頃にマラリアにかかったから蚊帳なんて必要ない。大丈夫だよ」と思う男が、蚊帳を売り払い5$に変えて、5日間くらいおなかを満たすことを選んでしまいます。男尊女卑、大人重視の社会で、その厳しい生活環境を生き抜いてきた男性に、弱者である女性や子供を守れと言っても、なかなか分かってもらえないのです。

Q.男性の方が回復しやすいのですか?

いや、大人だから回復しやすいということです。なぜ子供や女性の方が亡くなるのかというと、栄養状態がよくないからですよ。栄養状態が良好だったら、マラリアにかかっても発症しないので。食べるものも男性が優先ですし、子供はもっと食べられない。貧乏という状況では、大事な人が食べ、大事な人が物を使う。そうじゃない人は、なし、ということです。

Q.資金や援助がそろっていたとしても、現地の土台が十分ではない…ということですか?

そう。もちろん、資金・援助も十分とは言えないけれどね。それらが現地で上手に使われていない。

もっとくだらないのは、ケニアの部落とかに行くと、妊娠は汚らわしいという考えがあります。妊娠した奥さんはベッドで寝てはいけなくて、土間に寝なくてはいけない。妊娠するまでは、蚊帳の中で寝ていたのにもかかわらず!これこそが昔からの風習で、我々からすると「なんで~!?」と思うことばかり。優先順位としてはマラリアは低いし、エイズも低いですよ。向こうに行ったら、4割の人がエイズだからね。

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