ミカフェートの川島さんへのインタビュー、今回のテーマは「市場づくり」です。第1回、第2回では、生産者側に立って、よりよい品質のコーヒーを作ることや、貧困から脱出するための活路を伺ってきました。第3回では、消費者に実際に届けられるまでの「市場」がどうあるべきか、を語ってもらいました。現地での農園開発に長年携わり、コーヒーハンターとも呼ばれる川島さんが、日本で始めたかったことは。
<画像>ミカフェートのロゴは世界で一番美しいとされる幻の鳥、ケツァールをシンボルにしている。(参照:https://www.mi-cafeto.com/)
川島さんが代表取締役社長を務めるミカフェートが現在行っている事業内容は、大きく分けて以下の3点。(公式HPより)
1.コーヒー豆の輸入・販売
2.カフェ及びフランチャイズ事業
3.コーヒー及びコーヒー豆に関するコンサルティング
今回のテーマとなるのは、「1.コーヒー豆の輸入・販売」です。
6.最高品質と謳うコーヒーは多いけれど…
(画像)ボトル詰めでお茶の時間――飲む前からわくわく感(読み解き現代消費)
2015/07/22 日本経済新聞 夕刊 2ページ 絵写表有 820 文字
Q.ミカフェートといえば、シャンパンボトルに入ったコーヒー豆ということで話題を呼びましたが(笑)、どういうコーヒー豆を扱っているのですか?
うちは高いコーヒー屋だと思われがちだけど…違うよ!!(笑)「All for coffee.」すべてのコーヒーをおいしくするのが僕の仕事だと思っています。
Q.現地の農園だけでなく、消費者の側にも働きかけようという考えに至ったきっかけを教えてください。
以前の会社で、23年間産地の農園開発を行っていました。あるとき、本社に呼び戻されて日本に戻ったら、日本のコーヒーがあまりにもまずかったんです!このままでは、どんなにおいしいものを作っても産地はサステイナブルにならない、と感じました。生産者のために、そして、消費者のためにも、本当のコーヒーのおいしさを知らせることができるのは自分しかいない、と思ったんです。
Q.日本のコーヒーがまずいとは!?
今でも、コーヒーなんて安けりゃいいという考え方が根付いていますよ。例えば、多くの有名なホテルのラウンジマネージャーやレストランマネージャーたちが、おいしいコーヒーをお客さんに提供したいという相談しに、僕たちのところにやって来ます。でも、結局彼らの考えは、彼らの上司に却下されています。おいしいコーヒーを提供しようと判断ができる経営者がいるかいないか、はとても大きいです。
コンビニのコーヒーは税金込みで原価率13%だから、14円くらい。一方都内某有名ホテル一杯1200円で、原価10円くらい。ひどいコーヒー豆を使っていますし、ホテルの場合は一度に作るので、どんどん酸化していきます。日本のコーヒーの問題点は、レストランの格や品ぞろえに関係なく、同じコーヒーが100円、300円、1000円…で売られているということです。僕はそれを壊したかったんです。こんなことしてたら生産者がサスティナブルになるはずがない。いいコーヒーこそ、それに見合った値段で提供しないと。…僕が言っているいいコーヒーというのは、環境に恵まれた高地の生産者だけじゃなく、低地でも中腹でも、すべての土地で、人権と環境を守りながら作られたコーヒーです。そういうコーヒーを作る生産者のために、ちゃんとした市場を作るのが僕の仕事です。
7.生産者のための市場づくり
<参照>コーヒーと、フランスのワインの格付けピラミッド
Q.価格と品質が伴っていないということに問題があるんですか?
じゃぁ、皆さんちょっと考えてください。インスタントコーヒーも最高級品って言ってるし、缶コーヒーも最高級品って言ってるし、スーパーで売ってるUCCのコーヒーだって最高級品って言ってますよね。でも、ワインなんか違うじゃない?最高級品って言ったら、80万くらい100万くらいして。で、このワインは上から何番目ですっていう言い方をしてますよね。それと比較したらコーヒーは違うわけですよ。僕が思うのは、コーヒーはこんなこと(最高級品といいたい放題)してるから、ワインと差がついちゃって、「本当においしいコーヒー」が出てこなくなってしまったって思います。
コーヒーの品質の基準を明確にしたかったんです。そして、コーヒーにも、品質のピラミッドがちゃんとあるということを消費者に分かってほしかった。本当に最高級品のコーヒーは、ものすごい高い、そして稀少価値が高く、おいしいですよって。でも、真ん中くらいのコーヒーもその値段からしたらおいしいですよ。もっと低いピラミッドのところのコーヒーもあるけど、その値段からしたらおいしいですよって。…その品質基準を作るのに、下から始めたって誰も分かってくれなかったから、一番最初に、シャンパンボトルに入れた最高級品を作ったわけですよ。そしたらそれが、すごい有名になっちゃって(笑)。高いコーヒー屋って思われちゃったんですよ(笑)。
Q.どういうピラミッドなんですか?
今の時点では、1つの農園でも6段階のコーヒーがあります。日の当たり方や、雨の降り方とかによって、変わるからね。高地でとれるコーヒーだけが、スペシャリティーコーヒーっていう人たちはいるけど、僕はそうじゃないと思ってます。低地なら低地、中腹なら中腹で、環境を守りながら、人権を守りながら、作っている美味しいコーヒーが、本当のスペシャリティーコーヒーだと思ってるからね。低地でも、中腹でもおいしいコーヒーが採れるし、作ってる人たちがいるということを証明しようと思っています。ほかにも、コロンビアの知的障碍者のサポートとかやってるのは、そういう意味もあります。
Q.生産者と消費者をつなぐ大役を担っているわけですね
はい。コーヒー産業って、石油産業の次の次に大きな産業って言われているんです。ただ、関わっている人たちは世界で最大だという説もあります。それはなぜかとうと、生産者と、仲買人と、輸入商社、焙煎業者、コーヒーショップの人とかを含めたら、すごい数になるでしょ!だから、僕はコーヒーが変われば世界が変わると思っています。コーヒーから世界を変えていこうと思っているのが僕の会社です。
市場づくりの大切さをもっと簡単で身近な例でいうなら、「朝鮮特需」を思い浮かべるとよいでしょう。戦後の日本経済がいちはやく復活したのは、作ったものを確実に買ってくれる、そして何を作れば買ってくれるか、がはっきりしていたという点があります。それは、1950年に勃発した朝鮮戦争に伴うアメリカ軍からの特需です。おかげさまで、日本経済は51年には戦前水準を上回る復活を遂げました。このように、貧しい国が何を生産すれば確実に利益が上がるか…という問題に陥った時に、現代ではコーヒー豆があげられることがあります。これは、世界中でコーヒーの需要が増えていることが背景にあります。しかし、コーヒー豆は依然として、商社が豆の価格と量を中心に安定供給をするビジネスモデルが続いているそうです。「このビジネスモデルでは、生産者の努力に見合った収入を得ることができない」と、川島さんは考えているのです。生産者の品質向上への意欲と、環境保全を考慮に入れたビジネスモデルを作る試みはまだまだ続いています。